体操選手のためのコンディショニングを題材に山崎圭さんに連載いただいているこちらの連載。

第3回目の今回はセルフケアとリカバリーをテーマに書いていただきました!

 

過去の記事はこちら ⇒ Vol.1 Vol.2

第3回は体操競技におけるセルフケアとリカバリーについてです。

ここでは①ストレッチ、②クールダウン、③呼吸、④栄養の4つについて書かせていただきます。

 

1. ストレッチについて


体操競技では上肢を酷使することと胸ふくむ姿勢を常に意識しているためか、背中が丸く、胸が縮んで硬くなってしまっていることが多いという印象を受けています。

この背中が丸くなっている状態では肩甲骨は外に押し出され不安定になったり、肩が前に押されて引っかかってしまったり、胸部が伸びて回る動作が出なくなったりしてしまうので、怪我も増え、パフォーマンスも低下してしまいます。

 

また、股関節は柔軟では開く方向へ伸ばすことが比較的に多く、またお尻をしめる動作や股関節を伸ばす動作が多くなっています。

そうなると内側に折りたたむことが少なくなったりして、お尻の筋が硬くなっている選手も割と多く見ます。

お尻が硬くなると股関節を柔らかく曲げられなくなったり、股関節後面が硬くなって腿の骨を前に押し出してしまい、曲げるときに前側に詰まり感が出たり、内側に閉じられなくて足が割れやすくなったりしてきます。

この胸部とお尻を柔らかく保つために「ブリツェルストレッチ」、「ソラシックツイスト」、「ロックキングストレッチ」というものを紹介したいと思います。

 

ブリッツェルストレッチは臀部から腹斜筋、肋間筋、胸筋を回旋させてストレッチできるもので、体育座りから両足を同じ側の横に倒して踵と膝を合わせます。そのまま上半身を同じ方向にひねっていき胸をマットにつけるようにストレッチをしていきます。この時息を5秒で吸って、5秒で吐くというようなリズムで5回~10回行うようにしましょう。

練習前に静的なストレッチを行うと筋力が低下するという報告もありますが、胸郭が硬すぎると前回紹介したJoint By Joint Theoryのように、他の部位が連鎖して力が出なくなったり、怪我が増えたりということもあるので、練習前でも練習後でも必要であれば伸ばしていただきたいと考えています。

次はソラシックツイスト+アームスイープというものです。

 

動画の手が頭の上を通り越して止まるところまでをソラシックツイスト(胸をひねる)というのですが、股関節を安定させ、胸の回旋とともに、手のひらで床を触りながら腕を後ろに回すことで、上半身を伸ばして回す複合的な動きをすることができます。

 

ポールやボールを膝に置いて、軽く抑えることで体幹が安定し、身体が後ろに倒れやすくなります。

 

また、人の動きは基本的に目や手が動きを先導するものとなるので、手を見ながら回旋するなど視線をコントロールしていくと効果的です。

多くの選手は途中で硬さがあって一回止まってしまうので、止まったところで呼吸をして少しずつ可動域を出していきます。

その後の手が背中を通って下のお尻を触るところまでをアームスイープ(手で掃く)といい、胸を伸ばしたまま肩が前に出ないように内側に回すという動作となります。

 

このポジションでは肩の内側に回す動きや腕が背中川にある時の可動性と安定性も出すことができるので、背面支持や平行棒のスイングなど様々な動作での障害が起こりやすくなると考えています。

左右差も感じることのできるエクササイズですし、呼吸を用いながら左右3〜5回やってみるといろいろと気づくこともあると思います。

練習前は反動を使うような大きく動くストレッチがよいともいわれているので、ブリッツェルストレッチで必要な筋を伸ばした後にこのような動的なストレッチや倒立歩行、平行棒のスイング移行などで胸部が伸びた状態で、力を出しながら安定させて動いたりすると出力も下がらずに柔らかく使えるようになっていきます。

 

 

最後はロッキングストレッチとなります。

四つ這いの姿勢から片足を後ろでクロスするようにまたぎこしたら足と肘を地面について伸ばした足と同じ側の手を伸ばすというものです。

本来はお尻だけ内側に折りたたんで伸ばせれば十分なのですが、体操競技では上肢も一緒に動かしておきたいので、上半身も伸ばせるようにしてあります。

ちなみに私は動く前に胸部の動きを出すためにあん馬でこんなこともしています。

2. クールダウンについて


クールダウンでは身体の回復に向けてのコンディショニングとして、練習後に予測最大心拍数(220-年齢)の60〜75%のスロージョグorウォーキングを行ことによって、心拍数や自律神経系をコントロールするとともに、脂肪からエネルギーを供給することでのエネルギーの再合成をすることができます。

 

走るの?と思われますが、走っているのか歩いているのかわからないぐらいのゆっくりペースで、きついと感じずにおしゃべりしながら行える速度で十分です。

持久力をつけるというよりは循環を促して、疲労回復や自律神経をコントロールすることが目的となるので、10分ほどでも大丈夫です。

 

もし、胃が受け付ける方はクールダウンの前に液体(飲むヨーグルトや柑橘系の飲み物など)でエネルギー補給をしておくと消化が始まり、副交感神経優位に切り替わりやすくなり、クールダウンでのリカバリーを促すことができます。

 

また、そのスロージョグの時間はしゃべれるぐらいの速度で行うことが必要となるので、選手同士のコミュニケーションの時間にしたり、元気な指導者は一緒に行って今日の練習内容の復習や今後の目標などを話し合ったりする時間にすることができると、クールダウンも有意義な時間になると思います。

 

 

3. 呼吸について


普段、私たちが何気なく行っている呼吸なのですが、呼吸は赤ちゃんとして生まれてきて「オギャー」と泣いてから、今日この瞬間まで絶えず行っている動作となります。

もし、呼吸が止まってしまったら…

ものの数分で生きてはいられない状態になってしまいますよね。

実は呼吸は生きていくためにものすごく大事な役割を持っており、呼吸方法を変えるだけでもよい効果がたくさん得られます。

 

最初に自分の呼吸はどうなっているのか確認してみましょう。

仰向けに寝て、片方の手をお腹に、もう片方の手を胸の上の方に置いて呼吸をしたときに、どちらの手が大きく動くかをチェックするテストです。

お腹の手があまり動かず、胸の上の方の手が頭の方に上がっていくような動き、簡単に言うと首をすくめて肩を挙げるような呼吸をしてしまう方が多いと思います。

どのような呼吸方法がよいのかということなのですが…

安静時はお腹と胸の下側を、息を吐いたときにへこまし、吸ったときにふくらませるというような呼吸が正常の呼吸となります。

先ほどのテストをやられた方の中には、お腹の手があまり動かず、胸の上の方の手が頭の方に上がっていくような動き、簡単に言うと首をすくめて肩を挙げるような呼吸をしてしまう方もいたと思います。

 

呼吸は1分間で10~20回、1日に約2万回行われていると言われています。

なので、首をすくめて肩を挙げるような呼吸をしていると、1日2万回の肩を上げ下げするトレーニングを行っているということになります。

どんなに鍛えていても2万回はさすがに疲れてしまいますよね。

 

肩を上げ下げする筋肉は首にもくっついているので、使いすぎると首が回らなくなり、ひねり出しや視線のコントロールがしづらくなります。

肩甲骨も肩を挙げる筋肉に引っ張られて上がってしまうので、背中が丸くなり上肢の力が出にくくなってしまいます。

また、仰向けで正しい呼吸ができないと睡眠時にも肩を上げ下げしてトレーニングしているので睡眠障害や朝起きた時の疲労感にもつながっていきます。

 

腹部を柔らかく動かす呼吸ができれば、2万回以上の肩を上げ下げすることはなくなり、首・肩周りの筋肉の過緊張はやわらいでくれます。

ゆっくり大きく息を吐いてお腹をへこませたら、ゆっくり大きく息を吸ってお腹を膨らまして…

という腹式呼吸をお勧めします。

お腹に本など少し重たいものを置いて、吐いてへこませて、吸って持ち上げるという練習方法も効果的です。

※演技後の心拍数が上がった状態では努力呼吸によって呼吸するのでその時は上がってしまっても大丈夫です

 

また、人間は体を動かすと呼吸数・脈拍・体温は上昇し、興奮した戦闘態勢に入ります。

これはパフォーマンスを向上させるにはとても大事な要素となるのですが、行き過ぎてしまうと過緊張(あがり)の症状が出てプレーが硬くなったり、過呼吸になってしまったりすることもあります。

呼吸は唯一この緊張度に対してアプローチできるものとなります。

 

「あ、今は緊張しすぎてるから脈拍下げて…、体温下げて…」

 

というコントロールは普通の人間はできませんが、呼吸なら大きく息を吐いて速さをゆっくりに変えることができますよね。

呼吸数が下がれば自律神経の働きで過剰な緊張も下がることとなるので、この作用を利用して緊張度もコントロールすることができます。

手に汗をかき過ぎていたり、口が渇いていたり、浅く肩が上がるような呼吸をしていたりしたら、過緊張に陥っていることも想像できるので、まずは大きくゆっくり息をはいて呼吸を整えてみてください。

 

深く息を吐くことで肺に残っている二酸化炭素もしっかりと吐きだすことができ、新しく酸素を取り込めるので、脳にも酸素が供給され、酸欠にならずしっかりと思考が回るようになります。

それにより冷静な判断、適切な戦術の選択ができるようになり、さらには酸素が全身に供給できるようになるので持久力向上も期待できます。

 

もちろん練習中だけでなく、ゆっくりとした深呼吸を行うことで興奮した戦闘態勢から、リラックスした回復態勢にスイッチを切り替えることもできるので、練習後のクールダウン、お風呂屋や寝る前などのリラックスタイムでもうまく身体の回復を促進する為に活用することができます。

このあたりのものをコンディショニングのツールとして起床時・練習前・練習後・風呂上がり・寝る前などの場面で活用し、心身ともに良い状態を維持できるように取り入れてみてください。

 

 

4. 栄養について


今回は摂取カロリーと糖質・タンパク質に限定して書かせていただこうと思います。

和歌山国体や山口国体の時に発表されたスポーツ栄養の資料によると、体操選手が1日に必要な目標摂取カロリーは男子で2200〜2900kcal、女子で1900〜2500kcalというものが発表されています。

※競技者年代は不明です

 

資料によると瞬発系種目である体操競技で毎日ハードな練習をする場合、身体活動レベル:PAL(Physical Activity Level)は2.0となります。

一般の方はだいたいPALは1.7となるので、単純に差を計算すると練習では男子は330〜435kcal、女子は285〜375kcal消費しているという計算になります。

練習で使う分以外のエネルギー消費量を考えて、一食に取れるカロリーを計算すると男子はおおよそ一食620〜820kcal、女子は540〜710kcalとなります。

 

このうち糖質(炭水化物)は60%必要となるので、糖質で男子は一食370〜500kcal、女子は320~420Kcalほど摂取しないと、エネルギー不足により筋からエネルギーを取り出してしまう糖新生を起こし、筋の修復が遅れたり、筋量が減ったりしてしまいます。

なので、欠食をしたり、空腹の時間が長くなったりしてしまうと身体の回復は遅くなり、疲労が抜けなくなるということが起こってしまいます。

 

また、タンパク質は1日に体重×1.5〜2.0g必要となり、1回で吸収できる量は20〜30gとされているので1日に4、5回に分けて小まめに摂取する必要があります。

※肉・魚100gにタンパク質は20gほど含まれているので、一食100〜150g必要となります。

お金に余裕があるのであれば、練習の前後に持ち運びができるものとして、プロテインなどの摂取もありだと考えます。

冷蔵庫があれば牛乳やヨーグルト、柑橘系のジュース、白米やパンなど吸収の早い糖質(適正量であれば練習中のお菓子もありだと考えています)などを用意できると思います。

 

とりあえず、大事なことは練習中や前後でのエネルギー補給だと感じています。

動くエネルギーがなければ身体は重く感じるし、集中力は出ないし、疲労は回復しないし…

それにより、練習量の低下や障害の増加なども起こり得ると思います。

もちろん取りすぎによる体重増加もパフォーマンスには影響してしまうので、適正量を守ることが大前提となります。

 

練習前に200〜300kcal(おにぎり1個から1.5個)摂取しておけば、糖質不足によって筋が糖新生を起こして分解されてしまうことを防ぐことができます。

持ち運びの便利さや即効性を考えると油分の少ないチョコ、グミ、アメなどのお菓子もKcalをみて、必要な分であればいいのではと考えています。

また、練習後は筋中のグリコーゲンが枯渇していてグルコースやアミノ酸を運びやすい状態であるので、30〜45分以内の素早いエネルギー補給が必要となります。(全米スポーツ医学協会では糖質:タンパク質が4:1の比率での補給が望ましいとされています)

 

余談ですが、よくトップアスリートたちが甘い食べ物が好きで、よく食べているシーンをテレビで放送しているのを見かけますが、あれも練習で酷使した身体を回復させるために糖質を欲しているではないかと考えています。

 

練習を頑張ることはもちろんなのですが、練習を頑張るために練習以外のところでも勝負をしていかなければなりません。

次回は体操競技におけるコンディショニングトレーニングについて書かせていただきます。